・『遠野物語』の暗記。やっと[一]はなんとか。散文を暗記するというのは、水の中で溺れるのに似ている。藁をもすがって、原文を様々に区切ったり、まとまりをつくったり、いちいち読み仮名を書き込んだり、はては平仮名にさえローマ字で読み仮名を振ったり、引っ掻き傷を作らないと話にならない。口に出すのは当然として、また眼を閉ざした暗闇のなかで文章をきわめて空間的・身体的な風景として見つめなければならない。韻または音楽が暗記にどれだけ役に立つか、それに対する散文の決定的な拠りどころのなさ。雪道の中、歩く練習をしているようだ。